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哲学入門(バートランド・ラッセル著)14章 メモ(9)

 ラッセルの哲学入門(参考1)14章「哲学的知識の限界」の、抜粋と読書メモです。


P182、7行~P183、5行
 前述のことが正しいなら、哲学的知識は本質的に科学的知識と同じだ。哲学にだけ開かれ、科学に開かれていない特別な知識は存在せず、哲学の成果は科学の成果と根本的に異なることはない。

 

 哲学と科学の違いは批判である。哲学は科学や日常で使われる原理を批判的に検証する。哲学は、その原理に矛盾の可能性があれば批判的に検証し、その原理を拒否する理由が現れなかった場合にだけその原理を受け入れる。

 

 多くの哲学者が信じるように、不要な細部を取り除いて得られる科学的原理から宇宙全体の知識を得ることができるとすれば、それは科学的知識と同じことになる。しかしこれまでの考察に従えば、そのような科学的原理は存在しないことが明らかだ。よって大胆な形而上学者の教義は否定される。

 

 しかし、一般的な知識については肯定される。一般的な知識は批判的に検討してもそれが存在しない理由はめったに見られない。一般に人が信じる知識を、あり得ないことだとする理由を目にしたことはまだ無い。

 

 

<読書メモ>
 科学は帰納原理によってある仮説の蓋然性を限りなく高めていく。そこで例外が見つかれば、それを含めた仮説を作り直すという作業を繰り返す。こうやって得られる科学の成果は、哲学の成果と根本的に異なることは無いとラッセルは言う。


 本書第7章に帰納法による科学の在り方を説明し、第8章で論理的原理を幾つか紹介し、それらは帰納法と補完し合っているがいずれも完全ではないことを説明している。


 科学は成果として得られた知識が次の派生的知識を生み、更にそれが次の派生的知識を生むという風に、前に進むこと(新しい派生的知識を得ること)に価値が置かれている。一方で哲学は、これまで本書を読んだ私の印象では、帰納法を含む論理的原理による成果を常に批判し、成果の蓋然性の高さを見極めようとする、三歩進んで二歩下がる的な試みのように思える。

 

 つまり科学の印象は「難しいけど役に立ちそう」であるのに対し、哲学の印象は「難しくてその上、あまり役に立ちそうにない」というものだ。しかし、その見方は表面的なものに過ぎない。

 

 哲学は人間の思考を扱うため、科学、思想、政治、倫理などの形而下から形而上まですべてに応用が可能だ。ただしその成果は原理的なものに近いほど、抽象度が高いほど応用範囲が広いのではないだろうか。抽象度が高いことを難しいと言うならば、哲学は難しくて良いのだと思う。

 


参考1 哲学入門 バートランド・ラッセル著、高村夏輝訳、ちくま学芸文庫、2018年、第二十刷
参考2 http://www.gutenberg.org/files/5827/5827-h/5827-h.htm