作文練習

何か書くと楽しい、かもしれない。

オセローに出てくるマニピュレータ(読書感想文)

 マニピュレータとは自分の欲望や嫉妬のために他人を追い詰め、その心を支配しようとする者のことだ。最初は親密さを装って近付いて信用させ、次第に虚実を絡めた言動で獲物を追い込んでいく。恐ろしいことに、狡猾なマニピュレータから逃れるのは極めて難しいという。これはジョージ・サイモン著「他人を支配したがる人たち」(参考1)に詳しく解説されている。


 シェイクスピア作「オセロー」(参考2)には絵に描いたようなマニピュレータが登場する。オセロー将軍の旗手、イアーゴーだ。イアーゴーは言葉巧みにオセロー将軍に彼の妻のありもしない不倫をほのめかす。オセローは次第にそれを信じ込まされ、最後は悲劇で幕を閉じる。


 マニピュレータが巧みなのは、人の心の中をターゲットにするところだ。人の心の中は事実の確認ができない。


 オセローも最初は妻の不倫を信じていなかった。オセローは「疑いがあれば妻に直接問いただし、答えがNOであれば妻を信じる。」と言っていた。しかし後半、不倫の疑いでいっぱいになったオセローは、妻の答えがNOであればあるほどありもしない不倫への確信を高めてしまう。つまり、事実の確認は不可能だったのだ。自分の心が他人の心の真偽を判定することなどできるものではない。「オセロー」はそれを描いている。

 

 「オセロー」は以前当ブログでも感想文を書いたが、今回マニピュレータという面から読み直すことで一層面白さが増した。別々の本が後でつながる瞬間も読書の醍醐味のひとつだろう。

 


(参考1) 『他人を支配したがる人たち 身近にいる「マニピュレータ―」の脅威』 ジョージ・サイモン著、秋山勝訳、2020年電子版発行、2014年第一刷、草思社文庫(Kindle
(参考2) 『オセロー』シェイクスピア著、福田恆存訳、2021年3月第70刷、1973年第1刷、新潮文庫