【読書感想文】 夕凪橋の狸(ゆうなぎばしのたぬき) 梶井基次郎
梶井基次郎はいいよ、と誰かに勧められたので短編集を買ってみた(参考1)。なるほど文章にキレがある。キレッキレだ。内容こそ陰鬱なものが多いが、読んでいて気持ちがいい。
「夕凪橋の狸」という短編は著者の子供時代の回想で、真ん中の弟と末の弟が夜遅く帰ってきて家族に心配をかけたという話だ。よくある話なのにここまで書けるものなのかと感心してしまった。
末の弟は駄々をこねて無理やり真ん中の弟について行き、帰宅が夜になってしまった。真ん中の弟が怒られたのだが、末っ子はただ甘えて泣きじゃくるばかり。その時の末の弟に対する母の描写を紹介する。
引用はじめ- 彼をただ泣かしておくだけで何ともかまってやらない母の正当な処置が私には快く思われた。 -引用終わり
たったこれだけの文章で、兄である私の気持ち、末の弟の気持ち、母の凛とした気持ち、そして母の態度から何かを感じるだろう真ん中の弟の気持ちが鮮やかに浮かんでくる。
若くして亡くなった著者だが、日本文学全集に必ず名前を連ねる理由を垣間見た気がした。やっぱり読んでみなくちゃ分からない。