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哲学入門(バートランド・ラッセル著)14章 メモ(5)

ラッセルの哲学入門(参考1)14章「哲学的知識の限界」の、抜粋と読書メモです。


P179、6行~13行
 この矛盾を最初に強調したのはカントだ。カントは時間と空間は主観的なものにすぎないと演繹し、そう宣言した。そしてカントの後、多くの哲学者が空間と時間は見せかけであり、本当の世界に含まれる特徴ではないと信じてきた。
 しかし、ゲオルグ・カント―ルら数学者の努力により、ものの無限の集まりは可能だということが明らかにされた。無限の集まりは心の生み出した偏見と矛盾するだけで、実際には自己矛盾していない。
 したがって空間と時間は実在しないとする根拠は無効となり、形而上学の拠って立つ源泉の一つは無くなってしまった。

 

<読書メモ>
 ラッセルの論旨はこうだ。
(1)カント以降の哲学者は、無限を信じなかった。
(2)時間と空間は無限を含むので、時間と空間は無い。
(3)しかし近年、数学者は無限の存在を証明した。
(4)よって無限の否定は偏見であることが明らかになった。
(5)無限が実在することで、時間と空間の否定は根拠を失った。つまり時間と空間は存在する。

 

 ここでは、カントは無限を否定したということから、時間と空間が存在しないことを演繹したと書いてある。従って私は、それらのカント哲学について確認したい。

 

 まず、ラッセルによるカント哲学が本書第8章で説明されている。しかしここではカントが無限を信じなかったことについては触れられていない。


 それでは空間についてはどうか。


 本書(参考1)P106に、カント哲学の観念の中心である「物自体」をラッセルは否定している。しかし一方でラッセルは、「カントは現実の物から表象される認識と観念である物自体を両立させることで合理論者と経験論者を和解させ調和させる試みを行った」と書いている。つまりラッセルは観念(物自身)は認めていないが、現実の物を原因とする表象の方は認めており、一切を観念だとするバークリーの立場とは明確に分けている。残念ながら、空間は現実ではない(存在しない)というカントの説を、私はこの記述から読み取ることが出来なかった。

 
 次に、カントの著書、純粋理性批判に無限の否定はどう書いてあるか。

 

 まず、無限に関する記述を引用する。

 参考3、P91、16行~P92、3行

 「空間は与えられた無限量として表象せられる。ところで我々はどんな概念でも、無限数の種々な可能的表象のなかに(これらに共通の表徴として)いちいち含まれているような表象ーー従ってまたかかる無数の表象を自分のもとに包括している表象と考えて差支えない。しかしそれだからといってどんな概念も、それがもともと概念である限り、無限数の表象をあたかも自分のうちに包括しているかのように考えることはできない(唯一の空間をなす一切の部分は、同時に無限であり得るから)。故に根源的な空間表象は概念ではなくて、ア・プリオリな直観である。

 

 つまり、カントの議論は終始空間の表象(空間の認識とはどういうものか)に関するものだ。人間にとって空間は厳密には概念ではなく直観であるとしているが、直観であれば無限があっても良いとしている。確かに空間を概念として捉えるならばそれ自体に無限を包括することはできないという記述があるが、空間は直観だとしているので無限を否定する記述ではない。


 次に、純粋理性批判から時間と空間の否定について探してみた。


 おそらくラッセルが最も反論したい部分というのは、「我々が物を表象し、表象が物自体としての物に従うのではなく、対象が現象として我々の表象に従う」(参考3、P36)という想定だろう。カントは空間や時間を直観の形式とした。つまり時間と空間は我々が何かを認識するときの逃れられない枠組みであり、我々はその認識の枠組みを通じてのみ物を認識するということだ。


 しかし、いくら時間と空間が人間にとって直観の形式であるとしても、それを根拠にカントが時間と空間を存在しないものとして扱っている、という結論は変ではないか。カントは時間と空間は概念ではなく直観(観念)だとし、人間の認識の限界は、物と空間を切り離せないことだと結論付けたとしても、それはあくまで人間の認識の限界の話だ。ここからラッセルの「カントは現実の空間を否定した」という説は話が飛躍しすぎだと思ってしまうのだ。

 

 どうもカント哲学への反論になるとラッセル先生の論旨は急に難解になる。カントが無限に言及したことについては本書(参考1)では触れられていないし、私の読み取りのどこが足りていないのかも皆目分からない。あるいは、私の読んでいない他の文献をもとに論じられているのだろうか。

 


参考1 哲学入門 バートランド・ラッセル著、高村夏輝訳、ちくま学芸文庫、2018年、第二十刷
参考2 http://www.gutenberg.org/files/5827/5827-h/5827-h.htm
参考3 純粋理性批判(上) カント著、篠田英雄訳、岩波文庫、第72刷