人生がときめく片づけの魔法 近藤麻理恵著(読書感想文)
本書で大事なことは、物を残すか捨てるかを決めるためには手で直接触わって判断せよということだけだ。文章は易しく、あっという間に読める。読めるのだが。
いかにもインスタ映えしそうなタイトルと、読み易い文章に騙されてはいけない。
片づける時その手の中にある物は、自分と何等かの関係がある。それは、有用性であったりそこに含まれる人間関係であったりする。著者はそれが自己自身にどのような関係を迫ってくるのかを見極めろと言っているのだ。しかも、頭だけで考えるのではなく手に取って五感を使って直観しろと言う。
頭だけで考えると、関係の複雑さに判断が曇らされてしまう。例えば、人がせっかく買ってくれたけど殆ど着ることの無い服などは、迷い始めると捨てられない。「残して共に生きていきたいかどうか」という結論に辿り着くまでしがらみを越えなければならないからだ。
そこで著者は、手に取った瞬間にときめくかどうかで判断せよと言う。これは幾重にも絡まった複雑な関係を一気に俯瞰する方法であり、即ちこれが魔法だ。
自分の持ち物を一つ一つ精査し、その背後にある人間関係を含めて自己自身との関係を再定義する。自己の再定義である。繰り返すが、自己の再定義は頭だけで考えては駄目で、必ず五感を伴わねばならない。
更に、そこで為される自己の再定義はすべて「過去の自己」であると著者は断じる。よく見ろ、自己といっても過去であり目の前にあるのはたかが物なのだ。そうと分かれば簡単だからやってみろと読者に迫るのである。
人間関係や生活基盤は片づけほど簡単に整理することは出来ない。しかし、自己自身に関係してくる限りそれは自己である。こうあるべきだと行動する前に自分はどのようにあるのかを知ることが必要だ。五感を使う片付けで内観を鍛えることは、これを自覚することにも役立つだろう。
片付けを通じて生き方を見直す。これはそんな魔法の書だ。