作文練習

何か書くと楽しい、かもしれない。

ある種の優しさについて

 結婚する前に、「配偶者に言えないもしもの事が起きるかもしれないので、少し自由になるお金を持っておいた方がよい」と考えたり言われたりした人は、少なからずいると思う。私も若い頃はそんなものかなと思っていたが、実際はそんな「もしも」は来ない。そんな変な「もしも」より、自分の命が消える「もしも」の方がむしろ現実的だ。言えないもしもの備えは我執から発するが、自分のもしもの死の備えは相手への優しさから発する。

 

 他人の死は現象なので形而下だが、自分の死は認識できないので形而上と言える。しかし、他人の死も当人達にとっては形而上のことであるし、自分の死も他人にとっては形而下だ。そんな思いに至って初めて生まれる優しさもあるだろう。なぜ人を殺してはいけないのか?という問いは、自分の死だけを形而上とし他人の死をすべて形而下として扱う人がする質問だ。