作文練習

何か書くと楽しい、かもしれない。

運命が見える女たち (読書感想文)

 この小説は占い師を取材したドキュメンタリーという形をとっている。そして随分とエッジの効いた占い師達が出てくる。著者とは電話で話すだけだが、会ったこともない著者のことやその人間関係をどんどん当てていく。コールドリーディングング的なテクニックは使わないらしい。本物と呼ばれる人達なのだ。

 

 この話が本当かどうかはひとまず脇に置いておく。大事なのはそこではない。

 

 この小説の怖いところは、的確な占いのはずなのに著者の苦しみがどんどん大きくなることだ。登場する占い師は、占いが的確なことを別にすれば至極まっとうで常識人みたいな感じなのだ。それなのに何故こんなに恐ろしいのか。

 

 小説のエピソードの一つに、著者の尊敬する仕事仲間と新しいプロジェクトを始めるという心躍るシチュエーションがあった。しかし占い師は著者に、その仕事仲間が悩んでいて近々海外に拠点を移すこと、一緒に仕事ができなくなることを告げる。すると折角の楽しい仕事のはずが、著者の心は悲しみでいっぱいになり、まともに振舞えなくなってしまう。

 

 占いによる未来の変更は、他人を自分のために利用することに近い。人は人から否定されたくないし良く思われたい。もしも他人が自分を映す鏡だとすれば、未来と人の心を知り、先手を打ってそれらを変えることは、自分を変えずに鏡だけを歪める作業とも言えるだろう。苦しくなるのも無理はない。

 

 未来と人の心。この二つを知りたいという欲望は金銭欲なんかとは比べ物にならないくらいに深い。そんなものを正視できるほど人は強くはない。

 

(運命が見える女たち 井形慶子著 ポプラ文庫)