作文練習

何か書くと楽しい、かもしれない。

突然美しくなったとしよう(思考実験)

外見を気にするのは若い人ばかりではない。もう少しだけ美しい容姿をと願うのは女性だけではない。中年男性でも自分の容姿は見苦しくないかと気にする人は多いだろう。

 

しかし、気になるのは本当に容姿なのだろうか?

 

ちょっと思考実験をしてみよう。

あなたは今の容姿のまま、突然世界から羨望の眼差しで美しいと見られるようになったとしよう。楽しい思考実験だから現実はひとまず忘れて欲しい。

 

皆がこぞってあなたの左右非対称な顔やたるんだお腹、短い脚に憧れ、少しでもあなたに近づく努力をする。あなたはその容姿の美しさのため世界に影響力のある10人に選ばれるのである。するとあなたはその美しすぎる容姿に悩み、こっそりダイエットを始めるかもしれない。そうなるに至っては既に美しくありたいとか見苦しくなりたくないという思いは消えているに違いない。

 

つまり、気になるのは容姿ではなく他人の評価なのだ。

 

キェルケゴールは「自己とは自己自身に関係するところの関係である」と言った。“自己自身に関係するところ”が自己自身の容姿に関する他人の評価だとすると、その評価を気にする自分という“関係”がそこに生じる。キェルケゴールはそれらをひっくるめて自己だと定義する。従って「他人の評価なんて気にするなよ」みたいなアドバイスは自己の否定であり、そうですねと簡単に切り替えられる程人間は単純ではない。

 

キェルケゴールの言うことはいつだって身も蓋もないが、妙な迫力があって面白い。私はそんなキェルケゴールのことを「絶望おじさん」と呼んでいる。教えて!絶望おじさん!

 

 

 ※ 死に至る病 キェルケゴール著、斎藤信治訳、岩波文庫、第108刷、P22より引用