作文練習

何か書くと楽しい、かもしれない。

対人関係におけるストーリー化の誘惑

 知的作業の多くは選択とストーリー作りだと言われる。ストーリー作りには想像や予想も必要だが、その場合必ず事実と自分の考えを区別しなければならない。

 

 ストーリーは物事を理解するために極めて重要である。同時にストーリー化したいという欲望も非常に強い。仮に間違ったストーリーであっても、理解しやすいものは頭にすんなり入ってしまうのである。ストーリーは説明のための強力な武器だが、武器ゆえに使いたいという誘惑も強い。そのため扱いを間違うと大変なことになる。

 

 タイトルの「対人関係におけるストーリー化の誘惑」は、対人関係において自分の作ったストーリーに自分が飲み込まれてしまわぬように気を付けたいという意味である。

 

 例えば、あるとき挨拶したのに無視された、ということがあって悪い感情が起きたとする。相手が上の空で気付かなかったことが事実だったとしても、相手が自分を嫌っているという想像がいつの間にか事実に変換され「悪意を持って無視した」というストーリーが出来上がる。そしてその後は相手の何気ない一挙手一投足をそのストーリーに当てはめて説明し始める。自分についた魅力的な嘘に自分自身がだまされるのだ。

 

 対人関係における人の理解について検証できるのは自分以外には居ない。検証側がだまされると暴走するしかない。また、年齢を重ねると人生経験の名のもとに暴走の危険は増すこともあるだろう。

 

 斯く言う私も、自分が自分に対してついた嘘は見抜けていないはずだ。見抜けないのであれば、せめてもの戒めの言葉は「人はそれほど単純ではない」である。人を直観で決めつけてはいけない。